“勘”に頼らない農作業を変える直進アシスト
26 november, 2025 által
yunith.li
福菱機器販売株式会社(郡山・白河)は、スマート農業で地域の「人手不足」「高齢化」「人口流出」という課題に挑んでいる。今回は、FJDynamicsの自動操舵システムを圃場で活用するユーザーの声と、実際の運用から見える効果、導入をまとめる。

勘”に頼らない再現性へ

地域の水田では、田植え前後の代かきや長い直進作業が作業者に重い負担を強いてきた。とくに繁忙期は休憩も取りづらく、夕暮れ後は目印が見えにくくなる。従来は経験と勘でラインを維持してきたが、作業品質のムラや重複走行、やり残しが避けられないこともあった。そうした現場に、既存のハンドル式トラクターへ後付けできるFJD自動操舵システムがある。タブレットでA点とB点を指定すると、機体は高精度に直進し、操舵の緊張からオペレーターを解放する。カタログ上は±2.5センチの精度だが、現場の実感ではほぼ1センチのブレに収まる。レトロフィットのため古い機体でも活用でき、買い替えなしで“戦力化”できる点が投資判断を後押しする。

夜も、水面反射も、もう怖くない

ユーザーの斎藤さんは、ゴールデンウィークの最繁忙期にこそ違いを感じたという。直進を任せられることで作業の合間の自由度が増え、夜間もストレスなくラインを維持できる。水面が光を反射してトレースが難しい場面でも、タブレットのガイダンスに従えば迷いがない。どこを走ったか、どれだけ残っているかを視覚的に把握できる。高齢の作業者にとっては一日の終わりの疲労感が明らかに軽くなり、兼業農家でも短時間のレクチャーで現場投入が可能だったという。経験値の差が仕上がりに直結しにくくなり、品質の“再現可能性”が日々の安心につながっていく。

RTKが支える直進、境界取りがつくる段取り

精度の中核はGNSSにRTK補正を重ねる仕組みにある。福島県内でも地上局の運用が進み、アンテナからおよそ10キロ圏内では安定した補正が得られる。離れるほど精度は緩やかに落ちるが、代かきや整地では十分な性能だ。導入時はアンテナ、モーターハンドル、タブレットの三点を装着し、初期キャリブレーションを済ませる。圃場に入ったらまず境界をなぞって記録し、A点とB点で進行方向を定義する。以降は直進アシストが有効になり、Uターンもタブレット上の設計に沿って滑らかにこなす。圃場データは保存して呼び出せるため、翌年の立ち上がりはさらに速い。道具に習熟するほど段取りは洗練され、操縦の負担は管理と監督へと置き換わっていく。

投資の意味―数字と人の両方に効く

直進の再現性が上がると、まずムダが減る。重複走行や食い残しが縮み、燃料と資材のロスが目に見えて減少する。長時間の緊張から解放されることで姿勢負荷や眼精疲労も軽くなり、作業後の余力が戻る。結果として作業可能な時間帯が広がり、夜間の選択肢も生まれる。高齢の担い手が続けやすくなり、若い世代には“先端技術に触れられる仕事”としての魅力が伝わる。レトロフィットで既存資産を活かせるため資本効率は高く、段階導入でリスクを抑えながら効果を積み上げられる。地域にRTKインフラが整うほど、制度全体の底上げも進む。技術の導入が単体の作業効率にとどまらず、営農の持続性と雇用の選択肢に波及していく構図が見えてくる。

「人にやさしい生産性」が次の繁忙期を変える

FJD自動操舵システムは、直進の再現性を核に品質の均質化とコスト削減、疲労軽減を同時に実現する。暗くても、水が光っても、ラインは揺るがない。古いトラクターでも装着できるから、過去の投資はそのまま未来の戦力になる。人手不足と高齢化という構造課題に対し、スマート農業は作業者にやさしいかたちで生産性を引き上げ、地域の営農を支える現実解を提示する。福菱機器販売株式会社は郡山と白河の拠点から、圃場条件と経営状況に合わせた導入設計を行い、現場での体験を重視したサポートに取り組んでいる。はじめの一歩は、圃場と通信環境の確認から。次の繁忙期を変える準備は、今日から始められる。
画像提供:福菱機器販売株式会社