“勘”に頼らない再現性へ
地域の水田では、田植え前後の代かきや長い直進作業が作業者に重い負担を強いてきた。とくに繁忙期は休憩も取りづらく、夕暮れ後は目印が見えにくくなる。従来は経験と勘でラインを維持してきたが、作業品質のムラや重複走行、やり残しが避けられないこともあった。そうした現場に、既存のハンドル式トラクターへ後付けできるFJD自動操舵システムがある。タブレットでA点とB点を指定すると、機体は高精度に直進し、操舵の緊張からオペレーターを解放する。カタログ上は±2.5センチの精度だが、現場の実感ではほぼ1センチのブレに収まる。レトロフィットのため古い機体でも活用でき、買い替えなしで“戦力化”できる点が投資判断を後押しする。
夜も、水面反射も、もう怖くない
ユーザーの斎藤さんは、ゴールデンウィークの最繁忙期にこそ違いを感じたという。直進を任せられることで作業の合間の自由度が増え、夜間もストレスなくラインを維持できる。水面が光を反射してトレースが難しい場面でも、タブレットのガイダンスに従えば迷いがない。どこを走ったか、どれだけ残っているかを視覚的に把握できる。高齢の作業者にとっては一日の終わりの疲労感が明らかに軽くなり、兼業農家でも短時間のレクチャーで現場投入が可能だったという。経験値の差が仕上がりに直結しにくくなり、品質の“再現可能性”が日々の安心につながっていく。
RTKが支える直進、境界取りがつくる段取り
投資の意味―数字と人の両方に効く
直進の再現性が上がると、まずムダが減る。重複走行や食い残しが縮み、燃料と資材のロスが目に見えて減少する。長時間の緊張から解放されることで姿勢負荷や眼精疲労も軽くなり、作業後の余力が戻る。結果として作業可能な時間帯が広がり、夜間の選択肢も生まれる。高齢の担い手が続けやすくなり、若い世代には“先端技術に触れられる仕事”としての魅力が伝わる。レトロフィットで既存資産を活かせるため資本効率は高く、段階導入でリスクを抑えながら効果を積み上げられる。地域にRTKインフラが整うほど、制度全体の底上げも進む。技術の導入が単体の作業効率にとどまらず、営農の持続性と雇用の選択肢に波及していく構図が見えてくる。
「人にやさしい生産性」が次の繁忙期を変える