滋賀県野洲市で約 40ha の水稲を有機・自然栽培・減農薬で育てている中道唯幸さん。「作 物との対話を大事にするために、できることは機械に任せる」という考えのもと、早くか らスマート農業を取り入れてきました。


その中で活躍しているのが、 FJD 農機自動操舵システム「AT1」.(以下、AT1)です。 導入のきっかけは、5 年ほど前に販売代理店の 「但馬米穀株式会社」, からもらったカタログでした。
「黒田さん(但馬米穀)から AT1 のカタログをもらって。中国製の GPS ガイダンスは 10 年くらい前から展示会で見とったし、ヨーロッパではもっと前からやってるのも知っと ったから、中国でもやりはってんやなと思ってた。正直心配やったけど、黒田さんが言う なら大丈夫かと思って。」
深水代かきでも、今いる場所を見失わない
AT1 は、田植え機とトラクタに取り付けています。もともと 20 年ほど前からガイダンス 機器を使っていた中道さん。特に有機栽培では「まっすぐ走らせること」が重要だと言い ます。


有機栽培にとって雑草は大敵。代かきでは、できるだけ多くの雑草や種子をすき込むため に、重ね幅を広く取ってする人も多いのです。中道さんの場合、その幅は約 60cm。さら に、「トロトロ層」と呼ばれる泥の層を作るために、水を深く張って作業します。大量にで きた泥水が沈殿してできるこの層が、雑草の種子を埋没させ、出芽を抑える効果を持つか らです。一方で、深く水を張ると田面が濁って見えづらくなるため、作業の難易度は格段 に上がります。
「うちで一番でかい田んぼは 2ha あるから、もうどこ走ってるかわからなくなる。田んぼ が琵琶湖みたいで、今いるのが彦根沖なんか大津沖なのかって(笑)」 広大な圃場でも、AT1 があれば走行ラインを正確に保つことができます。
「FJD は重ね幅を調整できるし、ハンドル操作にも気を遣わんくてよくなったね。疲れ 方が全然違う。忙しい時期にこれだけラクになるから、元は絶対に取れてる。それに、代 かきの時間も朝に変えた。トロトロ層を作るには、風がない、波が立たない時間帯に代か きをするのがええんやけど、自動操舵があれば寝ぼけ眼でも作業できるやん。手動でやっ ていた頃にはもう戻れないね」
センターラインが見えなくてもまっすぐ植わる
代かきと同様に、中道さんは田植えでも水を張った状態で作業します。トロトロ層の維持の目的はもちろん、落水すると雑草が生えやすくなるからです。しかし、水がある状態ではマーカー跡(センターライン)が見えづらく、まっすぐに植えるのが難しくなります。条がまっすぐではないと、その後の除草作業で苗を傷める(除草機の車輪で踏んでしまう)からです。オペレータの技術が求められるため、以前は「まわりで評判になるほど上手い」従業員に任せていたそうです。
直進アシスト機能の付いた国産メーカーの田植え機の導入も検討されたそうですが、細かい設定ができず、導入を見送っていたそうです。
その後、AT1 を導入しました。オーバーラップ幅を 1cm 単位で細かく調整でき、田植え 後の除草作業も格段にラクになったと実感されています。
「田植え機は長く使っても 600 時間から 800 時間くらいやと思う。買い替える度に GPS 仕様のオプションを付けると、200 万くらいアップする。その点で、FJD は載せ替えがで きるからコスパもええね。今はオペレータが 3 人おって、一応誰でも対応できるようには なった」
水を落とさないことで環境保全
「前に作業の様子をドローンで撮影して、たまたま琵琶湖を上空から見たら、かなり奥の方まで濁り水が流れてたんよ。昔から琵琶湖の環境問題が言われとったけど、自身で実感できた。自動操舵を使えば、水を落とさなくても作業できるやん。それを考えると、多少なりとも意義があることだと思う」高精度な作業による効率化と省力化、そして環境への配慮。機械に任せられる作業は機械に任せ、人間にしかできない「作物との対話」や観察に集中する──。中道さんのスマート農業のスタイルから、今後のオーガニックの可能性を感じました。